takahiro_itazuriの公倍数的ブログ

本やWebを通して学習したことをまとめるブログです。最大公約数(つまり、共通部分)的なという表現と対比して、「なるべく包括的にカバーしつつ、更に+αの要素も加えられたらいいな」という意味で公倍数的ブログと名付けました。

多様体への導入

はじめに

多様体(manifold)という単語をたまに耳にしますが、「なんだか難しそう」というのが正直なところです。今回は感覚的に多様体を理解することを目的として、ざっくりと多様体とそれを理解するために必要な概念をまとめます。

位相空間(topologial space)

位相空間の定義とイメージ

Wikipediaにおいて、位相空間は以下のように記述されています。

数学における位相空間とは、集合にある種の情報(位相:topology)を付け加えたもので、この情報により、連続性や収束性といった概念が定式化可能になる。

つまり、普段数学で使っている連続性や収束性といった概念を定義可能な空間ということです。連続性や収束性という概念はものの近さから得られる概念であるため、位相空間は「ものの近さ」の概念を与える空間と言い直すとイメージが掴みやすくなります。

これらの概念は普段は距離空間のような幾何学的な対象に対して利用していますが、位相空間があれば幾何学でなくても解析学代数学でも利用可能であるのです。

「開集合系」「位相」「位相空間」の定義は以下のようになります。

集合$ S $に対して、部分集合族$ \mathcal{O} $が$ S $の開集合系であるとは、次の条件を満たすことをいう。

(O1) $ S \in \mathcal{O} $かつ$ \phi \in \mathcal{O} $
(O2) $ m \in \mathbb{N}, \quad O_1, \cdots , O_m \in \mathcal{O} \Rightarrow O_1 \cap \cdots \cap O_m \in \mathcal{O} $
(O3) 任意の集合$ \Lambda $に対し、各元$ \lambda \in \Lambda $から$ \mathcal{O} $の元$ O_{\lambda} \in \mathcal{O} $への対応を与えたとき、$ \cup_{\lambda \in \Lambda} O_{\lambda} \in \mathcal{O} $

集合$ S $に開集合系$ \mathcal{O} $が与えられているとき「$ \mathcal{O} $は$ S $に位相を定める」もしくは「$ S $には$ \mathcal{O} $による位相が入る」といい、$ \mathcal{O} $の元を開集合(open set)とよぶ。このような位相が定められた集合$ S $を位相空間(topological space)という。

この定義が「ものの近さ」を定義していると直感的にわかる人はそう多くないと思います。ただし、普段利用しているユークリッド空間は確かにこの性質を満たしています。

「ものの近さ」を測る場合に、まず思いつくことが定規等を使って距離を測ることだと思います。これは物理空間における距離です。次に「リンゴ」「ブドウ」「トマト」の「ものの近さ」を測るとなった場合には、色という概念に着目すれば「リンゴ」と「トマト」が近くなり、食べ物の種類という概念に着目すれば「リンゴ」と「ブドウ」が近くなると考えられます。このように尺度次第で「ものの近さ」は変わってしまいます。

そのような尺度を利用しない形で「ものの近さ」を定義しようとしたのが、先程の定義になります。先程の定義は、開集合系というたくさんのグループ分けを用意することで「ものの近さ」を定義しようとしていたのです。

先程の例でいうと、集合$ S = \left\{ リンゴ, ブドウ, トマト \right\} $に対して部分集合族$ \mathcal{O} $を以下のように定めたとします。
$$ \mathcal{O} = \left\{ \phi, \left\{ブドウ \right\}, \left\{ リンゴ, トマト \right\}, S \right\} $$
このとき$ (S, \mathcal{O}) $は位相空間の定義を満たしています。

このようなグループ分けは暗に「色」という距離を与えていることになります。

ここで一度、位相空間の例をいくつか挙げてイメージを膨らませましょう。

ユークリッド空間

ユークリッド空間$ \mathbb{R}^n $において、ふたつの元$x, y \in \mathbb{R}^n$に対し、$ d(x,y) \geq 0$をユークリッド距離とされています。また正の実数$ r $に対して、点$ p $を中心とした半径$ r $の開球(open ball)$ B(p, r) $は以下の集合で定義されています。
$$ B(p,r) = {x \in \mathbb{R}^n \colon d(x,p) < r} $$

そして、ユークリッド空間において開集合は以下のように定義されています。

部分集合$ A \subset \mathbb{R}^n $が$ \mathbb{R}^n $の開集合(open set)であるとは、任意の点$ p \in A $に対して、ある十分に小さな$ r > 0 $をとれば、$ B(p, r) \subset A $とできるときをいう。また、$ \mathbb{R}^n $の開集合全体を集めたものを、$ \mathcal{O} ( \mathbb{R}^n ) $で表し、$ \mathbb{R}^n $の開集合系とよぶ。

一般に上記の条件を満たすような$ p \in A $を$ A $の内点(interior point)とよびます。したがって、$ A $が開集合であるとは、「すべての点が内点となる集合」と言えます。

これにより、実際にユークリッド空間が位相空間の定義を満たしていることも確認することができます(自分で確認してみてください)。

$ (\mathbb{R}^n, \mathcal{O} ( \mathbb{R}^n )) $は位相空間である。

距離空間

ユークリッド空間をさらに抽象化した距離空間位相空間の性質を満たします。

まず、距離空間の定義は以下の通りです。

集合$ S $およびその任意の元$ x, y \in S $に対して、$ 0 $以上の実数$ d(x,y) $が定まり、次を満たすとする。
(MS1) $ d(x, y) = d(y, x) $
(MS2) $ d(x, y = 0 \Leftrightarrow x = y) $
(MS3) 三角不等式:任意の$ z \in S $に対して、$ d(x, y) \leq d(x, z) + d(z, y) $
このとき、関数$ d \colon S \times S \rightarrow \mathbb{R}, (x,y) \mapsto d(x,y) $を$ S $上の距離(metric, distance)という。集合$ S $に距離$ d $が定義されているとき、$ (S, d) $を距離空間(metric space)とよぶ。

$ p \in S $および正の実数$ r $に対して、$ p $中心とした半径$ r $の開球(open)は以下の集合で定義されます。
$$ B(p,r) = {x \in S \colon d(x,p) < r } $$

このとき距離空間における開集合は以下のように定義されています。

部分集合$ A \subset S $が距離空間$ (S, d) $の開集合(open set)であるとは、任意の$ p \in A $に対して、ある十分に小さな$ r > 0 $をとれば$ B(p,r) \subset A $とできるときをいう。また$ (S, d) $の開集合全体を集めたものを、$ \mathcal{O} (S, d) $で表し、$ (S, d) $の開集合系とよぶ。

そして距離空間位相空間の性質を満たしていることを確認することができます(自分で確認してみてください)。

距離空間$ (S,d) $は位相空間である。

分離公理(separation axioms)

Wikipediaにおける、分離公理は以下のように記述されています。

数学の位相空間論周辺分野において、考えたい種類の位相空間を割り出すための様々な制約条件が知られている。そういった制約のうちのいくつかが分離公理(separate axioms)と呼ばれる条件によって与えられる。(中略)分離公理は交わりを持たない集合や相異なる点を位相的な意味で区別する仕方を述べたものである。

ここまでで位相空間は「ものの近さ」を定義可能にすると説明してきました。これは逆に「ものの遠さ」を定義していることにもなります。そして、遠くにあるものを分離して考えることができるかどうかについて言及しているのが分離公理となります。

$T_0$空間

位相空間$ (S, \mathcal{O}) $が次の条件($ T_0 $)を満たすとき、$ (S, \mathcal{O}) $を$ T_0 $空間という。
($ T_0 $) 任意の異なる2点$ x, y \in S $に対して、$ x \in U $かつ$ y \notin U $となる開集合$
U \in \mathcal{O} $が存在する。あるいは$ y \in V $かつ$ x \notin V $となる開集合$ V $が存在する。

$T_1$空間

位相空間$ (S, \mathcal{O}) $に対する次の条件($ T_1 $)を第1分離公理あるいはFrechetの公理といい、$ (S, \mathcal{O}) $がその条件を満たすとき、$ (S, \mathcal{O}) $を$ T_1 $空間という。
($ T_1 $) 任意の異なる2点$ x, y \in S $に対して、$ x \in U $かつ$ y \notin U $となる開集合$
U \in \mathcal{O} $が存在する。

Hausdorff空間

位相空間$ (S, \mathcal{O}) $に対する次の条件($ T_2 $)を第2分離公理あるいはHausdorffの分離公理といい、$ (S, \mathcal{O}) $がその条件を満たすとき、$ (S, \mathcal{O}) $をHausdorff空間という。
($ T_2 $) 任意の異なる2点$ x,y \in S $に対して、$ x \in U, y \in V $かつ$ U \cup V = \phi $となる開集合$ U, V \in \mathcal{O} $が存在する。

以上の定義から、Hausdorff空間$ \Rightarrow T_1 $空間$ \Rightarrow T_0 $空間となる。

まとめ

ここまでを一度まとめます。

位相空間は、位相というグループ分けによって「ものの近さ」を定義可能な空間です。
距離空間は、位相空間に対して具体的な「距離」を定義し、「ものの近さ」が厳密に定量化される空間です。
ハウスドルフ空間は、位相空間に対して第2分離公理という「遠くにあるものに対する分離」の決まりが定まった空間です。

以上のように位相空間は「ものの近さ」を与えることが可能であるため、連続性や収束性という概念を定義することができるのです(連続性と収束性を実際に示すにはもう少しお膳立てが必要ですが、今回は多様体を理解するのが目的なので言及しません)。

多様体(manifold)

多様体の定義とイメージ

ここまで長くなってしまいましたが、ようやく多様体の話が出てきます。

Wikipediaにおいて、多様体は以下のように記述されています。

多様体(manifold)とは、局所的にはユークリッド空間とみなせるような図形や空間(位相空間)のことである。多様体上には好きなところに局所的に座標を書き込むことができる。

この説明がわかりやすいのでほぼそのままですが、どんなに曲がった空間であっても、局所的に見ればユークリッド空間のように扱うことができる空間を多様体とよぶということです。

厳密には、多様体は以下のように定義されています。

(M1) $ M $をHausdorff空間とする。
(M2) $ n $を自然数とする。添え字集合$ \Lambda $を持つ写像の属$ \mathcal{A} = \left\{
\phi_{\lambda} \colon U_{\lambda} \mapsto \mathbb{R}^n \right\}_{\lambda \in \Lambda} $が位相空間$ M $の地図帳(atlas)であるとは、$ \mathcal{A} $が以下を満たすときをいう。
  (a) $ \left\{ U_{\lambda} \right\}_{\lambda \in \Lambda} $はそれぞれ$ M $の開被覆(open convering)である。すなわち、$ U_{\lambda} $はそれぞれ$ M $の開集合であり、かつ$ \cup_{\lambda \in \Lambda} U_{\lambda} = M $がなりたつ。
  (b) すべての$ \lambda \in \Lambda $について、$ \phi_{\lambda} \colon U_{\lambda} \mapsto \phi_{\lambda} ( U_{\lambda} ) \subset \mathbb{R}^n $は同相写像。この$ \phi_{\lambda} $を$ U_{\lambda} $上の局所座標(local chart, local coordinate)、$ \left\{ (U_{\lambda}, \phi_{\lambda}) \right\}_{\lambda \in \Lambda} $を$ M $の座標近傍系と呼ぶ。
(M3) 位相空間$ M $とその地図帳$ \mathcal{A} $とのペア$ (M, \mathcal{A} ) $を多様体(manifold)とよぶ。
(M4) $ U_{\lambda} \cap U_{\mu} \neq \phi $のとき、写像
$$ \Phi_{\lambda \mu} = \phi_{\mu} \circ \phi_{\lambda}^{-1} \colon \phi_{\lambda} (U_{\lambda} \cap U_{\mu}) \mapsto \phi_{\mu} (U_{\lambda} \cap U_{\mu}) $$
同相写像であるが、これがすべての$ \mu, \lambda \in \Lambda $について$ C^{\alpha} $級であるとき、$ (M, \mathcal{A}) $を$ C^{\alpha} $級多様体とよぶ。とくに$ C^0 $級多様体は位相多様体(topological manifold)ともよばれる。

突然、かなり難しくなってしまいました。多様体をイメージするためによく用いられる話として「地球から地図を作る話」がよく用いられます。地球の表面は球面(楕円面)であるため、メルカトル図法(いつも皆さんが使っている世界地図)で地図を作ると、南極やグリーンランド等が以上に大きく描かれてしまいます。実はこの問題は地球を非常に小さな領域に分けて、その領域ごとの平面の地図を作ることでおおむね解決されます。この小さな領域ごとの地図たちを上述の定義では地図帳とよんでいます。そして、その地図帳には2つの性質があります。1つ目は作った地図たちが地球全体を網羅していること。2つ目は小さな領域と地図の対応は連続かつ1対1に対応していること。このような性質を満たす場合、地球と地図帳を合わせて多様体とよびます。

かなりわかりやすくなったと思います。結局のところ曲がった空間を扱うのは大変だから、親しみのあるユークリッド空間で扱えるようにしてしまおうということです。

さいごに

長々をお膳立てをした割りには、本題の「多様体」の話が少ないです、、、。申し訳ありません。「多様体」は非常に面白い分野なので、今後勉強し次第、更新しようと思います。それでは。