takahiro_itazuriの公倍数的ブログ

本やWebを通して学習したことをまとめるブログです。最大公約数(つまり、共通部分)的なという表現と対比して、「なるべく包括的にカバーしつつ、更に+αの要素も加えられたらいいな」という意味で公倍数的ブログと名付けました。

ヤコビアンと重積分の変数変換

はじめに

今回はヤコビアンと重積分の変数変換と題して、記事を書いていきます。
線形代数で習うヤコビ行列とヤコビアンですが、イマイチ何に使えるかわからない人に対して、重積分の変数変換を応用例として解説していきます。
積分と聞いて、この記事から逃げずに、最後まで読んでいただけると、ヤコビアンと親しくなれると思います。

ヤコビアンとは

ヤコビアンとはヤコビ行列の行列式のことです。

ヤコビ行列は以下のように定義されています。
以下の2つのベクトル${\bf x}, {\bf y}$が与えられ
\begin{align}
{\bf x} =
{\begin{pmatrix}
x_1 & x_2 & \cdots & x_n
\end{pmatrix}}^T \\
{\bf y} =
{\begin{pmatrix}
y_1 & y_2 & \cdots & y_m
\end{pmatrix}}^T
\end{align}
$y_i$は$x_j$で偏微分可能とする。
このとき、$\frac{\partial y_i}{\partial x_j}$を$ij$成分とする$m \times n$行列${\bf J}$をヤコビ行列という。
\begin{align}
{\bf J} =
\begin{pmatrix}
\frac{\partial y_1}{\partial x_1} & \frac{\partial y_1}{\partial x_2} & \cdots & \frac{\partial y_1}{\partial x_n} \\
\frac{\partial y_2}{\partial x_1} & \frac{\partial y_2}{\partial x_2} & \cdots & \frac{\partial y_2}{\partial x_n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
\frac{\partial y_m}{\partial x_1} & \frac{\partial y_m}{\partial x_2} & \cdots & \frac{\partial y_m}{\partial x_n}
\end{pmatrix}
\end{align}

上記のヤコビ行列の定義から、ヤコビアンは以下のようになる。
\begin{align}
\begin{vmatrix}
\frac{\partial y_1}{\partial x_1} & \frac{\partial y_1}{\partial x_2} & \cdots & \frac{\partial y_1}{\partial x_n} \\
\frac{\partial y_2}{\partial x_1} & \frac{\partial y_2}{\partial x_2} & \cdots & \frac{\partial y_2}{\partial x_n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
\frac{\partial y_m}{\partial x_1} & \frac{\partial y_m}{\partial x_2} & \cdots & \frac{\partial y_m}{\partial x_n}
\end{vmatrix}
\end{align}

ヤコビアンの定義は以上です。
それでは次にどのような場面で利用されるのかについて見ていきましょう。

積分の変数変換

1変数の積分の変数変換

いきなり重積分の話をすると、混乱してしまいますので、まず1変数の積分の変数変換について考えていきます。

置換積分の公式は以下のようなものでした。
\begin{align}
\int_{a}^{b} f(x) dx = \int_{\alpha}^{\beta} f(g(t)) g'(t) dt
\end{align}
これは高校生の時にやりましたね。ここでは積分変数が$x$から$t$に変わっています。このように積分変数を変換する際には、積分区間被積分関数積分変数を適宜変換しなければいけません。

ここでは積分変数の部分について着目してみましょう。先程の例では、以下のような変換が行われていました。

\begin{align}
x = g(t) \to \frac{dx}{dt} = g'(t) \to dx = g'(t)dt
\end{align}

このように、ただ$dx$を$dt$に変えれば良いわけではないのです。ここでは細かいことまで説明はしませんが、$g'(t)$という係数は変数変換の際に発生した縮尺を合わせるための係数となります。

ところで1変数のヤコビ行列は定義より以下のように書けます。

\begin{align}
{\bf J} =
\begin{pmatrix}
\frac{\partial y}{\partial x}
\end{pmatrix}
\end{align}

そして、$x$と$y$が$y=g(x)$という関係式で表すことができるとき、ヤコビ行列は以下のようになります。

\begin{align}
{\bf J} =
\begin{pmatrix}
\frac{\partial g(x)}{\partial x}
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
g'(x)
\end{pmatrix}
\end{align}

そして、1行1列の行列の行列式はそのままなので、ヤコビアンは$g'(x)$となります。なんと積分変数の縮尺合わせの係数がヤコビアンと一致しています。これは偶然でしょうか。2変数の場合を考えてみましょう。

2変数の重積分の変数変換

積分変数$x$と$y$に対して、以下のような重積分が与えれたとする。
\begin{align}
\int \int f(x, y) dx dy
\end{align}
ここで別の変数$u$と$v$に対して、以下のような関係式が与えられる。
\begin{align}
x = x(u, v) \\
y = y(u, v)
\end{align}
このとき積分変数を$x$と$y$から$u$と$v$に変換したい場合を考える。

ここで積分変数の変換を行う場合は、縮尺をそろえてあげる必要がありました。ここでは2変数であるため、その2変数が形成する面積が等しくなるように縮尺を合わせる必要があります。

ここで先程の関係式を考えると、以下のように変換されることがわかる。
\begin{align}
(dx, 0) \to (\frac{\partial x}{\partial u} du, \frac{\partial x}{\partial v} dv) \\
(0, dy) \to (\frac{\partial y}{\partial u} du, \frac{\partial y}{\partial v} dv)
\end{align}

これは基底変換をしていることに相当します。変換されたベクトルは変換先の基底で直交しているとは限らないので、2つベクトルで張られる平行四辺形は2つベクトルの外積から求められるので、以下の式が導き出せる。

\begin{align}
\begin{pmatrix}
dx \\ 0
\end{pmatrix}
\times
\begin{pmatrix}
0 \\ dy
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
\frac{\partial x}{\partial u} du \\ \frac{\partial x}{\partial v} dv
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\frac{\partial y}{\partial u} du \\ \frac{\partial y}{\partial v} dv
\end{pmatrix} \\
dx dy =
\begin{vmatrix}
\frac{\partial x}{\partial u} & \frac{\partial x}{\partial v} \\
\frac{\partial y}{\partial u} & \frac{\partial y}{\partial v}
\end{vmatrix}
du dv
\end{align}

またしても、ヤコビアンと縮尺合わせの係数が同じになりました。

同様にして3変数の場合を考えてみる。ここでは実際に計算はしないが、平行六面体がスカラー三重積の行列式で求まるので、やはりヤコビアンと一致します。

このようにヤコビアンは変数変換をした際の縮尺を表す係数としての役割をします。

最後に

今回はヤコビアンとその利用方法として積分変数の変換を紹介しました。
今回のような変数変換をする際にはヤコビアンは縮尺合わせの係数としての役割を担うことがわかりました。
ヤコビアンのさらなる応用例がありましたら、今後紹介していこうと思います。